INTERVIEW

ネスレ日本株式会社 高田 耕造・株式会社TAM 加藤 洋 × タンバリン 中尾 達也
日常的なデジタル体験が、人類の感性を前に進めてくれた。

中尾 達也 / Tatsuya Nakao

株式会社タンバリン 取締役社長
2015年9月に株式会社タンバリンを設立。お客様のビジネスに深く入り込み貢献する受託開発事業を展開。SalesforceやHerokuなどのクラウドプラットフォームを活用したWebサービスの開発を多数手掛けてきた。
Twitter @tamb_nakao

高田 耕造 / Kozo Takada

ネスレ日本株式会社 デジタル&Eコマース本部 デジタルCX開発ユニット マネージャー
1975年生まれ、福岡出身。学部時代に言語学を学び、修士からは自然科学研究科の地球惑星科学科 非線形科学講座に在籍。博士課程中退後、福岡県久留米市で伝統織物を用いたアパレルメーカーに勤務。営業・物流などの仕事をしながらosCommerceを用いてECサイトの立ち上げを行う。2007年からネスレ日本に勤務。日本初のiPhone向けレシピアプリなどを企画。これまでおもにデジタルマーケティングやECの業務に従事。
Twitter @tomokozo

加藤 洋 / Hiroshi Kato

株式会社TAM 取締役 / コミュニケーションプランナー
株式会社しゃかいか 代表取締役 / 編集長
1975年京都生まれ、滋賀在住。「今日からできるFacebookファンページ制作&運用ガイド」を出版。コミュニケーションプランナーとして自治体や大手企業のデジタルマーケティング支援、Webメディア「しゃかいか!」を通じてものづくり企業と消費者の新しい関係づくりに挑む。
しゃかいか! https://www.shakaika.jp/
Twitter @listenlisten

INTRODUCTION

世界186カ国で商品を販売している、多国籍企業Nestlé(ネスレ)。その日本法人の第一線で、ECサイトやデジタルコミュニケーションに携わってきた高田耕造さま。10年来に渡って親交を温めてきた株式会社TAMの加藤さまを交え、タンバリン中尾と3人でお話をさせてもらいました。3人は普段から、互いに気になるトピックや、新しいデジタルのサービスについて意見交換する仲。いま各々がどんなことを考えているのか、何に興味を持っているのか、自由に語り合いました。

※ このページはnoteからの転載記事です。

INTERVIEW

テクノロジーで、人類はやさしくなれる?

中尾:
タンバリンは株式会社TAMから独立した会社ですが、僕がTAMに入社まもない頃、「ネスレゆずりば」というソーシャルサービスの立ち上げに携わり、高田さんと知り合うことができました。今思えばSDGsをはるか先取りしたようなサービス。すごく先進的な取り組みで、関西でもこんな仕事ができるんだとワクワクした記憶があります。加藤さんも一緒に、このお仕事に関わらせていただいたんですよね。

▲ネスレゆずりば

加藤さま(以下、敬称略):
2011年の冬だったでしょうか。誰でも簡単に暮らしの品を無料でゆずったり、もらったりできるFacebookと連動したサービスでした。2010年くらいにFacebookが盛り上がり出して、すごくおもしろいなと勉強していたところで、他にもソーシャルメディアにまつわる仕事で高田さんとご一緒させていただきました。

高田さま(以下、敬称略):
ありがとうございます。私は2007年にネスレに入社して、そこから自社のデジタルコミュニケーションに携わってきました。さっき中尾さんがご紹介くださった「ネスレゆずりば」は、東日本の震災後に立ち上がったもので、助け合いの気持ちをみなさんと形にしたサービスでした。

中尾:
今では3人で実際に会えるチャンスは1年に一回あるかないか。でも、普段からメッセージで頻繁にやり取りを交わしていて、本をご紹介いただいたり、イベントを教えてもらったり情報交換を常に続けさせてもらっています。今回は、高田さんや加藤さんがいま考えていることや、興味のあることを聞かせていただけたらと思います。

加藤:
今日は3人で話ができるとあって、とても楽しみにしてきました。

高田:
僕もです!……いきなりですが、おふたりは世界最大のカメラメーカーはどこかご存知ですしょうか?

中尾:
えっ!いきなり問題ですか?(笑)……カメラメーカーといえばやはり、キャノンかニコンのイメージが強いです。

加藤:
僕もまず、その2社の名前が浮かびました。

高田:
実は、今世界でいちばんカメラを生産しているのは、Appleなんです。

中尾:
あっ、そうか!

高田:
みなさんが持っているiPhoneやiPadの中に、カメラがありますよね。 私は今、こんなことを真剣に考えています。インターネットに常に接続されたカメラを持つことによって「人類はもっとやさしくなる」んじゃないかって。

加藤:
やさしくなる……ですか?

人類史上はじめて、日常的に写真を撮る体験がものの見方を多面的にしてくれる

高田:
それはなぜか……。古代インドに伝わる、とある寓話をご紹介します。

高田:
目の不自由な人々が、対象が何かわからない状態で象を触っています。ある人はお腹を触って「壁だ」と言ったり、足にふれている人は「円柱だ」と言ったり。しっぽを触った人は「ロープだ」と、それぞれに違ったことを話します。

中尾:
部分的にしか認識できないと、大きな全体像を捉えるのは難しいですね。

高田:
ここから得られる教訓を「木を見て森を見ず」というところで終わらせず、物語はもう一歩先に進みます。人々は、お互いに情報交換をはじめるんです。するとどうでしょう、バラバラだったピースがそろい「触っていたのは象だった」ということがわかるんです。(寓話にはいろいろなバージョンがあるそうです。)

この物語は、横から、上から、下から、さまざまな視点をもった人たちが、コミュニケーションをとることで問題が立体的になって浮かび上がり、適切な対応ができた。ということを教えてくれます。

加藤:
なるほど。

高田:
ここで、最初の話に戻ります。

世界中の人たちがスマホを持つようになったことで「日常的に写真を何十枚も撮る」ことが、人類の歴史上ではじめて起きています。これまでごく限られた人たちしかできなかった、写真を撮るという行為が万人に開かれました。さらには写真を撮る人たちのリテラシーが格段に変わってきているんです。

中尾:
写真を撮る人のリテラシー……確かに僕の娘は中学生ですが、LINEやInstagramをはじめて、戸惑うことなく自然と使っていて驚くことがあります。

高田:
そうそう、子どもたちは特に顕著です。僕の子どもは写真を撮るときに、被写体のまわりにあるものを片付けます。彼女たちは背景の整理を日常的にしています。何かをうつすときには「うつさないもの」があるというのを感覚的にわかっているんです。

加藤:
一般の人たちも、写真で状況の一部を切り取るとかトリミングすること自体が、からだに染み付いている感じがします。

高田:
正面からとればこうなる、横から見ればこうなる。それが日常にあるので、若い人たちのものの見方って多角的で、多様性に開かれていると思うんです。

中尾:
感覚的に、それが備わっているということですね。

高田:
かつてカメラを持てる人は限られていたので、感覚的にそれらを習得できる人たちも限られていました。ですが現代の人たちは、ものを多角的に捉えることが感覚的に染み付いているんです。これは、人類に大きな意味をもたらすと思っています。

デジタル上の体験によって、企業やマーケターが考えているはるか先に、感覚的に進んでいる人たちがいる。それを認識して考えなければなりません。

他者の視点に立つ訓練が、日常的に行われている

中尾:
僕の中学生の娘も、ソーシャル上の人格をすでにしっかり認識しているなと感じる瞬間があります。Instagramの投稿を見ていると自分を魅力的に見えるように表現しつつ、しかしそんなに嫌味にならないようにチューニングしている。自分のことも周りのことも、すごくよくわかっているなって娘ながらに感心しています。

加藤:
まさにデジタルネイティブですね。先ほどの話で高田さんが「やさしくなる」と表現されていたのがおもしろいと思いました。私の子どもも中学生なんですが、この世代の子どもたちは穏やかですごくやさしいなと日頃から感じています。高田さんのおっしゃる「やさしくなる」というところを、もう少し深く伺わせてください。

地球の出(出典:Wikipedia)

高田:
こちらの写真をご覧ください。だれもがきっと見覚えのある「地球の出」。1968年にアポロ8号に乗船し月に訪れたウィリアム・アンダースが撮影しました。この写真は「史上最も影響力を持った写真」と言われ、今のSDGsにつながるような環境問題が世界的なムーブメントになったきっかけだと言われています。

中尾:
美しいこの写真を見ると「地球って尊い」。自然とそんな気持ちにさせられます。

高田:
私は、新しい発展は、外に出ることで促されると考えています。人類がはじめて地球を外から眺めたとき、環境問題の意識が大きく広がったんですよね。違う視点を手に入れることで、地球を愛おしみ大切にしようという気持ちが芽生えた。

こうした多面的な視点をもてる人たちが、スマホのカメラの普及によって桁違いに多くなっているんです。一般的なカメラの出荷台数はピーク時で1億1000万台。一方スマホは14億7200万台。撮影されている数もこれまでと桁違いで、2020年には全世界で1兆4千億枚の写真が撮られたと言われています。一週間に100枚以上撮る人もざらにいますよね。

中尾:
改めて数にすると、すごいですね。

高田:
現代は、人が撮った写真を日常的に絶え間なく見ているはじめての時代です。年配から若者まで、多くの人たちが他者の視点に簡単に立てるようになった。

「地球の出」の写真を見て気付かされたように、私たちは日常的に他者の目線に立って物事を考えるようになっている。だから、やさしくなれる。これまでにない規模感で人類が「やさしくなれる」、これはすごいことが起きるぞ!そう考えています。

加藤:
いやぁ……なるほど。そう考えるとものすごいことが起きようとしている気配を感じますね。

何をうつし、何をうつさないか。見る人は鋭敏に感じとっている

高田:
状況の一部を切り取るという話を掘り下げると、写真によっては「きれいなところだけ切り取ったんだろうな」って、なんとなくわかるじゃないですか。

中尾:
感覚的に伝わってしまいますよね。

高田:
これは写真だけに当てはまる話ではないと考えています。どんな活動でも、何を表現し何を表現してないかで、自然と事実が浮かび上がり、正体が見えてしまう。「やさしくなる」だけじゃなくて、見る人たちの視力が上がっていっているというか……。

加藤:
何をうつして、何をうつしてないかって、僕もすごく興味があります。たとえばフェイクニュースの動画が出てきたときに、私たちの世代は、この技術が進化すれば恐ろしいことになるのではないかと心配したものです。でも、子どもたちを見ていたら騙される心配はないな、大丈夫だなって感じる瞬間があります。

中尾:
企業との接し方も同じで、友だちを見るように「こいついいやつかな」って人格を見られている気がしますね。

加藤:
フェイクニュースがあったときも情報をそのまま受け取るのではなく、「なぜこの動画が流れているのか?」と、その理由を考える能力が備わっているなと感じます。

これは若い人だけじゃなくて、人の頭の中がすごく進化してきているんだろうなって。切り取られたもの、表に出てこないもの。その選び方は、何を意図していて、どういう目的があるのだろう。人々の思考はしっかりそこまで深まっているんです。だから、企業がどういう目的で動いているのか、よく見られているし、簡単に見透かされると考えています。

【後編】「顧客体験」という言葉自体が、顧客との壁を生むのかもしれない。」でも、3人の対談を公開中です。併せてご一読いただければ幸いです。